宇野千代 『雨の音』

『雨の音』 宇野千代
講談社学芸文庫
http://www.amazon.co.jp/exec/obidos/ASIN/4061960466/qid=1085118345/sr=1-10/ref=sr_1_10_10/249-2753125-9497126


文庫になっててその辺で買える宇野千代の本は大体読んだつもりになっていたが、重要なのを見過ごしていた。
老年の(98歳で亡くなったのでその期間はとても長い)の作品の多くは、エッセーや自伝的小説。内容が似過ぎているものも多いが、ついつい読んでしまう。
そして、この『雨の音』は、そのなかでも、鋭さや正直さ、切実さが溢れたものだと思う。
元祖ポジティブ・シンカーのような宇野千代だが、元気、独立心、孤独、寂しさ、楽しさ、面白さが全部同居した生きざまは、面白おかしいようで、深く考えると切ないような、苦しいような気持ちにすらなってしまう。
「その人(相手の男性)のためを思ってやっていたように思い込んでいましたが、本当は自分が面白いからやっていただけなのでした。」
とさらっと過去の自分を振り返る。

明治に生まれ、昭和、大正と男性達と渡り合った(?)訳だが、その時代の男の人達ってどうだったのだろう?
宇野千代の話からは、「男尊女卑」みたい匂いが全くしてこないのも興味深い。誰かに行動を制限された、みたいな話も出てこない。

やりたいことをやっちゃったらしい。
それを嫌がらないひとを呼び寄せていたのか、嫌がっていたことに気づかなかったのか、多分どっちもだったんだろうなあ。
不幸なのか幸福なのか誰にもわかんないなあ。

その全てが魅力に転んでいることが偉大なのだと思う。

そして、掛け値なく素晴らしいのがその文章。
生き生きとして、すんすん入ってくるリズム。
文章に対しては、いつも正直で厳しい姿勢。自分自身のために挑んでいる。
一歩間違うと単なる“本能の人”にも見えかねない生き様だが、
見事に尊厳に包まれている。

どうやら、そのヒミツは、仕事(文学)に対しては何があっても
真摯であり続けたことにあるみたいだ。
そういうのこそが、その人の「芯」というものなんだ、としみじみ思った。